繭の色と糸の色

三味線の糸が黄色なのはウコンで着色してあるからだということはどこかで書いた気がする。ウコンには防虫効果があるが、何故わざわざ黄色に着色したものかはぼんやりとした疑問でしかなかった。

シルクレポート2014年11月号に東京農工大学農学部蚕学研究室の横山岳准教授が寄稿された『「普通のカイコとは?」「カイコの繭色は白?」』という文章が大変新鮮だ。横山氏によれば、白色の繭というのは突然変異で生まれたものであり、大正時代までは普通に色付きの繭のカイコを飼っており、世界的には色付きの繭を作るカイコの方が多いという。名高いタイシルクも黄色の繭から作られているそうだ。紅色の繭をつくるカイコはいつでも紅色の繭を作るし、黄色の繭を作るカイコはいつでも黄色の繭、白色の繭を作るカイコは白い繭をいつでも作るそうだ。カイコはそれぞれ遺伝的に何色の繭を作るか決まっているとのこと。黄色や紅色の繭は、桑葉中のカロチノイド、薄い黄緑色はフラボノイドが繭色についたものだそうで、カイコが桑葉を食べると、桑葉の色素が消化管の膜を透過し、体液を経て、繭糸をつくる絹糸腺に辿りついて繭に色がつくのだそうだ。何らかの原因で、消化管や絹糸腺の膜を通過することが出来なくなると、色素が繭糸に辿りつかず、白色の繭ができることになる。

ただ、色付きの繭から色付の糸ができる訳ではない。繭糸は熱水に溶けるセリシンという糊状(膠質)のタンパク質と、熱水に溶けないフィプロインというタンパク質からできている。繭をお湯で煮ることでセリシンが溶け、さらにアルカリで煮て精錬することでセリシンを完全に除き、フィプロインだけにする。よく昔の製糸場の映像で繭を煮ている工程が映し出されることがあるが、あれはセリシンを除くためだったのだ。残ったフィプロインが白い絹糸である。昔の絹はセリシンを多く残したので、絹色にも色がついていたようだ。楽器弦に使用する絹色はセリシンを多く含んだままのものであり、これが音の響きや余韻につながるという訳だ。だから昔から三味線の色はセリシンを多く含んだ黄色の糸が使われていただろう。今では品種改良で白い繭が一般的になってしまったために、伝統的に黄色だった和楽器弦に合わせて、あえて黄色に染色するようになったということのようである。